イタリア・アブルッツォ郷土料理レストラン TRATTORIA DAI PAESANI

異国の地で表現するアブルッツォ伝統の味

<プロフィール>

TRATTORIA DAI PAESANI(トラットリア ダイ パエザーニ)オーナー

ジュゼッペ・サバティーノ

1957年生まれ。イタリア中部アブルッツォ州出身。

同店オーナー兼サラミ職人でありながら、ワインのソムリエ資格も持つ。

イタリア、ドイツ、フランス、アメリカのイタリアンレストランで経験を積み、日本にやってきたという。2014年に同郷出身である元在日イタリア大使館総料理長出身のシェフ、ダヴィデ・ファビアーノさんと、「TRATTORIA DAI PAESANI(トラットリア ダイ パエザーニ)」をオープン。

アジアで唯一アブルッツォの郷土料理店

「イタリア料理ではないんです。アブルッツォ料理なんです」とオーナーのサバティーノさんは言う。イタリアの中部に位置するアブルッツォ州の郷土料理が食べられる「TRATTORIA DAI PAESANI(トラットリア ダイ パエザーニ)」である。

なんと、今から数えて約555年前、キリスト教布教のために日本にやってきた最初のイタリア人、アレッサンドロ・バリニャーノもアブルッツォ出身であることから、このレストランと、日本、そしてアブルッツォのつながりを感じるのだ。そんな「TRATTORIA DAI PAESANI」では料理はもちろんのこと、ワインやビールもアブルッツォものを揃えている。

サバティーノさんは「先日、アブルッツォから日本にやってきた観光客がここに食べにきてくれてこういったんです。『このレストランが故郷アブルッツォになくて残念です。日本で故郷を思い出せる料理に出会えると思っていませんでした。今ではアブルッツォでもこのような料理は食べられません』と。今のイタリアでは食の現代化が進み、若い世代が伝統的な料理を食べる機会が非常に減っています。歴史ある素晴らしい料理が消えつつあるんです。
だからこそ私達が、アブルッツォの伝統的で素晴らしい郷土料理を世界に発信し、アブルッツォの歴史ある素晴らしい食文化を蘇らせたいんです」と話した。

そんな本国に住むアブルッツェーゼ(アブルッツォ出身の人を指す)も故郷を思い出すほどの料理が食べられる「TRATTORIA DAI PAESANI」は世界で唯一の場所なのかもしれない。

日本に来たのは直感

「50年ほど前にローマのイタリアンレストランでこの仕事を始めました。そのレストランは魚が美味しいとすごく有名で、日本人とアメリカ人の観光客から大人気だったんです。そこで働いているうちに、海外での経験を積みたいと思うようになりました。その後はローマの青山にもあるSabatini(サバティーニ)というレストランで働きました。その後は、もともと持っていた外国で働いてみたいという気持ちに駆られ、ドイツに行きました。その後、イタリアに戻ったのち、1975年にアメリカのシカゴのイタリアンレストランで働きました。アメリカの後は、ローマに戻り1年だけ働き、すぐパリに行きました。そしてパリでは16年くらい働きましたね。その後はまたローマに戻りました。そして日本に来たんです。もうかれこれ20年前になりますかね」

数々の国を渡り、経験を積み、世界中の人にイタリア料理を届けてきたのである。

「日本にはすごく良いイメージを持っていました。それである時直感で、日本にいこうと感じたんです。もともと日本の着物や伝統的な衣装が好きだったというのもあるんですが。それを見るために日本に来たんですけど、イタリアより近代化が進んでいて腰を抜かしましたよ笑」

アブルッツォのレストランで生まれたシェフと日本でタッグを組む

「ずっと、僕の故郷であるアブルッツォ料理のレストランをやりたいという気持ちは持っていました。」とサバティーノさん。しかし、アブルッツォ料理をやるからにはアブルッツォ料理をよく理解しているシェフがいなければいけない。

「幸運にも2012年に今のシェフであるダヴィデと出会いました。当時彼は在日イタリア大使館で働いていたんですが、誰かがダヴィデに『日本にイタリア人のサラミ職人がいるみたいだぞ』と伝えたみたいなんです。それで彼がとても興味を持ったらしく、誰がサラミを作っているのか知るために、わざわざ私を訪ねにきました。それからちょっとして、彼を、『一緒にアブルッツォ料理のレストランを開かないか?』と誘いました。それが6年くらい前ですね。そして、2014年にこのTRATTORIA DAI PAESANIをオープンしました」

と偶然に偶然が重なってオープンした同レストラン。物語はこうして始まるのである。

「シェフのダヴィデの両親は故郷アブルッツォでレストランを営んでいるんですよ。なので、彼は物心がつく前からアブルッツォ料理と共に生活しながら成長していきました。彼の心と口の中には故郷であるアブルッツォの味が深く刻まれているんです」

レストランで育ったシェフは、異国の地で故郷の伝統の味を大切に伝えているのである。

「ワインは全てアブルッツォのものです。ビールもアブルッツォのものを揃えています。野菜はアブルッツォ州に根付くスローフードの精神を大切に受け継ぎ、自家農園から栽培したオーガニックの野菜を使用しています。サラミも腸詰めから全て手作りの自家製です。そして全ての料理はシェフであるダビデが毎日丁寧に心を込めて仕込んでいます」世界で数人のしかいない唐辛子入りのサラミのVentricina (ヴェントリチーナ)の職人であるオーナーが作るこちらの自家製サラミは、本場アブルッツォでも味わうことが難しい特別なものである。レストラン入り口にあるサラミ専用の熟成庫から、本場の味やレストランに対する特別な想いを感じることができる。

先祖代々に伝えられてきた家庭的なアブルッツォ料理

「アブルッツォはイタリアの中部に位置します。そして古代の建物などが残ったとても歴史のある州なんです。アブルッツォの郷土料理に飾り気はほとんどありませんが、豊で豊富な味を感じることができます。食材が良いということではありません。料理を作る人の愛、心、そして情熱が込められているんです。また、少ない食材で1品を作ることができます。アブルッツォはお金が沢山ある州ではないので、人々は自分たちの持っているものの中でおいしい料理を作らなければなりませんでした。でもそれが私たちの力になっています」と熱い気持ちを語るサバティーノさん。

「アブルッツォ料理は5km程しか離れていないところでも全く違う料理が楽しめるんですよ。種類もたくさんあります。私たちの先祖は少ない食材で最高の一皿を作ってきました。なので、私たちも一番大事にしているのは良い食材を集めることではなく、今自分たちが持っている料理で最高のものを作ることなんです。そしてそのアブルッツォの料理をそのまま心を込めて提供しています。私たちは日本人の舌に合わせて作っていないんです」TRATTORIA DAI PAESANI は“郷に入れば郷に従う”のではなく“郷に入っても自分たちを貫く”レストランなのである

多くの人にヨーロッパで最も美しい街の一つである故郷の魅力を感じて欲しい

「アブルッツォは美しい山々があり緑が多く、海にも面している非常に豊かな土地です。多くの都市のように都市開発は進んでいないので、空気が綺麗で昔のままの自然がそのまま残っています。そして、アブルッツォの料理は、イタリア料理とは大きく違うんです。イタリア料理のような見た目の美しさや、高級食材を使った豪華な料理ではないですが、作った人の温もりや愛を感じることができます。お母さんやおばあちゃんが作ってくれる料理のようなイメージですね。決して華やかではないかもしれないけど、作り手の温もりを感じる。そこに私たちは自信と誇りを持っています」

サバティーノさん含めこのレストランの人々はアブルッツォを心から愛しているのである。

「アブルッツォというと、初めは、どこそれ?という感じだったのですが、料理を食べていただいてから、アブルッツォという街に興味を持ってくれる方がいたりしてとても嬉しく思っています。私たちの活動が少しでもアブルッツォの助けになったら嬉しいです。大きい都市ではありませんが、人々がストレスなく暮らしています。ヨーロッパで最も美しい街の一つだと思います」と語った。

Torattoria dai paesani×マイエッラ・ビール

アブルッツォ地方の伝統的な料理に加え、ワインやビールのドリンクメニューもアブルッツォのものだけにこだわっているトラットリア・ダイ・パエザーニ。「8種類それぞれのビールに面白いキャラクターがありますね。味も香りも全然違うけど、すごくおいしいです。料理との合わせ方を変えるだけで、全く違うハーモニーが楽しめるんです。私たちそれぞれの料理と合う組み合わせがいくつかあるので、お客様それぞれが自分のお気に入りの組み合わせを見つけることができると思いますよ。伝統のアブルッツォ料理に、ちょっとしたアクセントを加え、口の中に訪れる味の変化を楽しんでほしいです」とサバティーノさん。アジアで唯一のアブルッツォ料理が食べられるトラットリア・ダイ・パエザーニは、僕たちがお腹を空かしてレストランに入ったその瞬間から、「村人によるトラットリア」という意味の店名の通り、アブルッツォ地方の村人である彼らが伝統的な食文化をもつ彼らの故郷に連れていってくれるのだ。

<Information>

名称:Trattoria dai paesani(トラットリア ダイ パエザーニ)

住所:東京都新宿区西早稲田2-18-19

アクセス:東西線高田馬場駅より徒歩約6分/JR高田馬場駅より徒歩約9分/副都心線西早稲田駅より徒歩約6分

電話番号:03-6457-3616

営業時間:ランチ・11:30~15:00(L.O.14:30)  ディナー18:00~23:00(L.O.22:30)

日曜日18:00~22:30(L.O.22:00)

定休日:月曜日

TEXT:佐藤 靖晟/PHOTO:深町 レミ

この記事を書いた人

アバター画像

佐藤靖晟

佐藤靖晟‬
‪元サッカープレーヤー。‬
‪高校卒業後にイタリア、スペインに渡りプレーする。現在は通訳業や取材・執筆業などに加えイタリアのチョコやワインの販売も行う。‬