ビール好きならば、一度はこんなことを考えたことがないでしょうか。「自分でビールをつくることができないものか」と。ビール愛に溢れるばかり、実際に醸造にチャレンジしてマイクロブルワリーを設立してしまう方もいるようです。実はベルギーには1940年頃から家庭でビールを醸造し、さらには農作業中に飲んでいた農家もいました。こうしてベルギーの農家が自家醸造したビールはセゾンビールというビアスタイルとして確立されています。こちらでは、ベルギービール全般について簡単に紹介しつつ、セゾンビールに焦点を当てて解説しています。これを読み終える頃にはきっとセゾンビールを試してみたくなることでしょう。

セゾンビールはベルギービールの一種
セゾンビールの解説に入る前に、ベルギービールについて触れておきましょう。ベルギーは「ビール王国」とも呼ばれるほど多種多様なビールを造る国として知られています。それもそのはず。同国で生産されるビールの銘柄数は1,000を超えるほど豊富だからです。
ベルギービールが世界的に有名になったのは、評論家でライターであるマイケルジャクソン(1942-2007年)の功績です。あの「ポップの帝王こと、マイケルジャクソンと同姓同名だったことから、「ホップの帝王」と呼ばれることもあるほど、ビールをこよなく愛した人物でもありました。
ベルギービールの主流は、他の多くの国と同様に下面発酵であるピルスナーですが、それ以外にも上面発酵であるエールビールの他、自然発酵のビールまで様々あります。ヒューガルデンホワイトやシメイなどは日本でもなじみのある銘柄の一例でしょう。
ベルギービールのもう一つの特徴がグラスへのこだわりです。なんとベルギービールには、その銘柄一つ一つに専用のグラスが用意されているのです。タンブラー型・聖杯型・チューリップ型・フルート型など、豊富なグラスの種類によって、見た目も美味しくビールを楽しむことができます。そんなビール大国で生まれたビアスタイルの一つであるセゾンビールについて詳しく見ていきましょう。

セゾンビールとは
セゾンビールは1940年頃にベルギーで生まれた自家醸造ビールです。農家が夏の農作業中に喉を潤すために、冬から春先に造っていたのでした。セゾンとはフランス語で「季節」を意味します(英語ではseason)。各家庭によってレシピが違い、その味わいは異なるため、その一つ一つが個性的なビールだったと言えるでしょう。
農作業中にビール?と疑問に思った方もいるかもしれませんね。実はこの時代、生水は病原菌を含んでいる恐れがあり、安全衛生に不安がありました。そこで醸造の工程で煮沸し、殺菌作用のあるより安全なアルコールであるビールを飲む習慣が始まったようです。当時の環境と先人の知恵によって生み出されたビールこそセゾンビールなのです。
セゾンビールは上面発酵のエールビールの一種です。二次発酵を瓶の中でおこなったり、ホップを多めに使用したり、スパイスを加えたりすることで、夏に飲むまでの長期間、品質を保ちながら貯蔵されていたのでした。

セゾンビールの特徴
セゾンビールの味わいは、ホップのほどよい苦みとドライな酸味が特徴です。色合いは薄い金色のものもあれば、明るい茶色栗色のものもあり、アルコール度数は4~8.5%ほどが一般的です。スパイスを使用することもあるため、その独特の風味を楽しめるものもあります。誕生した当時にもそうだったように、現代でも夏場に飲みたくなるような、爽やかな味わいが広がります。

セゾンビールの代表銘柄: セゾン・デュポン
セゾンビ―ルの代表的な銘柄の一つがセゾン・デュポンです。セゾン・デュポンは、ベルギーのデュポン醸造所でつくられます。デュポン醸造所はエノー州のトゥルブという人口800人の小さな農村に所在し、最新設備を駆使しながらも、伝統的な醸造方法でビールを造り上げます。現在は海外へのマーケティングにも力を入れており、デュポン醸造所のビールは日本を含め、諸外国へ輸出されています。
気になるセゾン・デュポンの味わいですが、口にするとまず華やかなホップの香りが広がります。すっきりとしたホップの苦みと、甘味・酸味のバランスがよく取れており、伝統的なセゾンスタイルが忠実に守られた銘柄と言えるでしょう。
セゾンビールの親戚: ビエール・ド・ギャルド
ベルギー国境地帯付近の北フランスでつくられ続けているのがビエール・ド・ギャルドです。ビエール・ド・ギャルドも元々農家が醸造したビールのため、セゾンビールの親戚のようなビールです。こちらもまた、家庭により色・香り・味は異なります。しかし総じて言えば、色は明るい琥珀色や栗色、または茶色がかった赤色で、フルーティーなエステル香が楽しめます。苦みはさほど強くなく、ほのかな甘みがあるのも特徴です。セゾンビールとビエール・ド・ギャルドはともに農家の自家製ビールがルーツであることから、この二つを「ファーマーハウスエール」と呼ぶこともあります。
セゾンビールのまとめ
セゾンビールは1940年代のベルギーの農家の環境と知恵によって生み出されたことがおわかりいただけたことと思います。もし過去にタイムスリップできるならば、当時の農家が自家醸造したセゾンビールを飲んでみたいものです。残念ながらその夢は叶えられそうにないですが、今でも伝統的なセゾンビールを造る醸造所は存在します。ビアバーなどでセゾンビールを見かけたときは、味わってみてはいかがでしょうか。

Novi Luna ノヴィ・ルーナ
軽くきめ細やかな繊細な泡と、柔らかい乳白色に白濁したビール。
素材にラベンダー、カモミール、オレンジの花、コリアンダーの種、オレンジピールなどが使われ香りがとても豊かな華やかなエールビールです。

Cluviae クルヴィアエ
靄がかかったような黄色のブロンドビール。
素材にりんごジャムを使用し穀物や果実のフルーティーさとほんのり酸味の爽やかな味わいが楽しめます。

Emigrante エミグランデ
アメリカのペールエールをヒントにつくられた深い金色のブロンドエール。
麦芽を100%使用し、香りと苦味のバランスがよくしっかりとした味わいです。

Magia d’Estate マジアデスターテ
ドイツのヴァイスビアをヒントに作られたウィートエールです。
オレンジピールの香りに泡は軽くきめ細やか。
乳酸菌の発酵による酸味とホップの苦味がアクセント。


Matthias マシアス
はちみつの香りと、豊かでクリーミーな泡のアンバーエール。
キャラメルのアロマ、果物、蜂蜜のオーガニックな味わいがしっかりと感じられます。

Bucefalo ブセファロ
力強い黒色、泡はクリーミーで赤褐色、芳醇なダークエールです。
チョコレート、コーヒー、リコリスの香りがホップの存在感と見事に調和。
ブラウンシュガーも効いていて嫌な苦味がありません。